LGBTQ、心理的安全性、ダイバーシティ研修を提供する株式会社マクアケデザインのホームページです

経済産業省トランスジェンダー女性職員トイレ訴訟 判決文のポイント

経済産業省に勤務するトランス女性職員が、女性用トイレの使用を制限されたことについて国に処遇改善や損害賠償を求めていた裁判の最高裁判決が下りました。トイレの使用制限に問題はないとした人事院の判定を違法とする判決を言い渡され、制限を適法とした二審判決を破棄。職員の逆転勝訴が確定しました。

メディアやSNS等では結果のみが一人歩きする傾向がありますが、企業の対応を考える上では、その判断にいたった経緯を把握することが重要です。特に裁判官からの補足意見に企業の対応を考える上でのポイントが述べられていますので、それらも含めて判決文の全文より抜粋しました。

 

判決文は下記のリンクより、判決文の全文をダウンロードできます。
判決文の全文(裁判所ホームページ)

 

[概要]
経済産業省に勤務するトランスジェンダー女性職員が、執務する階とその上下の階の女性トイレの使用を認められず、それ以外の階の女性トイレの使用を認める旨の処遇を実施されていた。そのため主に執務する階から2 階離れた階の女性トイレを使用するようになった。当該職員が人事院に対し、職場のトイレの使用等に係る行政措置の要求をしたところ、認められない旨の判定を受けたことから、本件判定の取消し等を求めて起こした裁判。

 

■当該トランスジェンダー女性職員の状況
・女性ホルモンの投与を開始[H10年頃〜]
・性同一性障害の診断[H11年頃]
・女性として私生活を送る[H20年頃〜]
・戸籍名を女性的な名前に変更[H23年]
・血液中の男性ホルモン量が基準値の下限を大きく下回っており、性衝動に基づく性暴力の可能性が低いと判断される旨の医師の診断を受けていた[H22年3月頃]
・健康上の理由から性別適合手術は受けておらず、戸籍上は男性

 

■時系列
[H22年7月]
・経済産業省において、当該トランスジェンダー職員の性同一性障害について同じ部署の職員に対して説明会を実施
・経産省において、当該トランスジェンダー職員に対して、執務階とその上下の階の女性トイレの使用を認めず、それ以外の階の女性トイレの使用を認める旨の処遇を実施
・当該トランスジェンダー職員は、説明会の翌週から女性の服装等で勤務。上記の処遇に従い、主に執務階から2階離れた階の女性トイレを使用するようになった。それにより他の職員との間でトラブルが生じたことはない
[H25年12月]当該トランスジェンダー職員が、職場の女性トイレを自由に使用させることを含め、原則として女性職員と同等の処遇を行うこと等を内容とする行政措置の要求
[H27年5月]
人事院は、いずれの要求も認められない旨の判定

 

判決文からの抜粋

自認する性別に即して社会生活を送ることは、重要な利益であり、法的に保護されるべきもの。性別適合手術を受けておらず、戸籍上はなお男性であっても、経済産業省には、自らの性自認に基づいて社会生活を送る利益をできる限り尊重した対応をとることが求められていたといえる。

 

・とはいえ、他の利益と抵触するときは、合理的な制約に服すべきことはいうまでもない。同僚の職員の心情にも配慮する必要がある。当該トランスジェンダー職員と、他の女性職員らの利益が相反する場合には、両者間の利益衡量・利害調整を、感覚的・抽象的に行うことが許されるべきではなく、客観的かつ具体的な利益較量・利害調整が必要であると考えられる。「女性職員らの守られるべき利益(当該トランスジェンダー職員の利用によって失われる女性職員らの利益)とは何か」をまず真摯に検討することが必要であり、また、そのような女性職員らの利益が本当に侵害されるのか、侵害されるおそれがあったのかについて具体的かつ客観的に検討されるべきである。

 

・当該トランスジェンダー職員の女性トイレの使用に一定の制限を設けたことは、急な状況の変化に伴う混乱等を避けるためのいわば激変緩和措置とみることができ、上告人が異を唱えなかったことも併せて考慮すれば、平成22年7月の時点において、一定の合理性があったと考えることは可能である。

 

・トイレの使用への制約は、不利益を被ったのは上告人のみであったことから、調整の在り方としては、本件処遇は、均衡が取れていなかったといわざるを得ない。

 

・説明会から人事院判定までの4年を超える間、当該トランスジェンダー職員が一貫して女性として生活を送っていたことを踏まえれば、経済産業省においては、説明会において担当職員に見えたとする女性職員が抱く違和感があったとしても、それが解消されたか否か等について調査を行い、トイレ使用に関する制約を必要に応じて見直しをすべき責務があったというべきである。

 

・暫定的に、執務する部署が存在する階のみの利用を禁止するとしても、施設管理者等として女性職員らの理解を得るための努力を行い、漸次その禁止を軽減・解除するなどの方法も十分にあり得たし、また、行うべきであった。

 

・トイレの利用に関する利益衡量・利害調整については、他の職員に対する配慮は不可欠であり、また当事者の個々の事情や、外部の者による利用も考えられる場合には不審者の排除など、施設の状況等に応じて変わり得るものである。したがって、取扱いを一律に決定することは困難である。トランスジェンダー本人の要望・意向と他の職員の意見・反応の双方をよく聴取した上で、職場の環境維持、安全管理の観点等から最適な解決策を探っていくという以外にない。

 

・なお、本判決は、トイレを含め、不特定又は多数の人々の使用が想定されている公共施設の使用の在り方について触れるものではない。この問題は、機会を改めて議論されるべきである。